それは、ある年のことでした。
私といくつも違わないご夫婦が、「土地を買って家をたてたい」という夢を抱いて私の所に相談に来てくださいました。
予算はけっしてたくさんある、とは言えない額。
でも、その額は彼らにとって、きっとめいっぱい頑張った「清水の舞台から飛び降りる」つもりのはず・・・。
私は、私なりに二人の希望に添えるように努力して提案をはじめました。
しかしあるとき、事態が急変します。
「有名なメーカーが、○○も△△もついてるのに、予算の範囲に収めてくれるって言うから・・・」
有名ハウスメーカーが開いた説明会に参加して、そちらに心が動いてしまわれました。私は選んで戴くことが出来ませんでした。
競争の激しい住宅業界ですから、それはこの仕事をしていると、けっしてめずらしい事ではありません。
仕方がないことだ、と、私は残念な事の一つとして、二人のことを忘れていきました。
ところがです。
私はその二人が建てている家を、よく観察する羽目になってしまったのです。なぜなら、その建設地のすぐそばで仕事をしていたから・・・。
それは、私という建築屋の良心からすると、信じられない事の連続でした。
いい加減な基礎の作り方、工業化住宅という名のもとに簡略化された作り、そして何より、安っちい本体なのに、装備でお得感を出している・・・それでいいのか、家づくりって?
私なら、一生背負っていく借金をしてまでつくった家があれであるなら、きっと後悔をします。
出来る事ならキャンセルしたい、そう思うでしょう。
あれは心のこもった家では、なかった。
「箱」とか、「入れ物」をつくる作り方だった・・・
私に仕事を下さらなかった事に恨み言をいうつもりは全くありません。
それは仕方のない事ですから。
でも、
「あなたはあの家でよかったの?」
私はそう聞きたかった。
余計なお世話だけど、かわいそうだった。二人にあんな家づくりをさせてしまったことが、悔しかった。
本当に余計なお世話だけど、私はちょっと涙が出てきたのを覚えています。 |